動きがつくる「生命」 - プロトセル生成ワークショップ体験レポート

WETBOTS - プロトセル生成ワークショップレポート

皆さんは、物質と生命の間について考えたことがあるでしょうか?

人間の体は水や脂肪やタンパク質など様々な物質の集積によってできています。ですが、私たちを構成する物質をそっくり集めても、ただの塊ができるだけで「生命」にはなりません。私たちは単なる物質ではなく、複雑に機能していて、動いたり、歌い出したり、他の塊を食べて大きくなったりします。よく考えると不思議なことですよね...

3月20日に行われた「 WetBots - プロトセルとウェットなオートマタ生成ワークショップ」では、「物質」から「生命」になる瞬間とはどこなのか?という生物学、哲学的にもとても大きな問いに挑んでいる先端のバイオに触れる機会となりました。まるで生きているかのように動く「プロトセル」を作る体験を通じて生体系の特徴をもつシステム作りの世界を体験しました。

講師紹介

 ホアン・カストロ(Juan M. Castro)さんはコロンビア・ボゴタ出身で東京在住のアーティスト。多摩美術大学でメディアアートの博士号を取得し、世界中で作品発表やワークショップを行っています。過去作品では地球に酸素を供給した原初の生命と言われているシアノバクテリアと鑑賞者のインタラクションを可視化したヴィジュアルアートや細胞膜を構成する化学物質の合成でつくるバイオマイクロ彫刻など、自分の作品を作るためにバイオテクノロジーを学び、自分の手でバイオメディアを扱ってきた稀有なアーティストです。今回は、なかなか一般の人が触れる機会のないプロトセルの制作のプロセスをワークショップとして公開してくれました。

主に近代以前の生物学は、研究の対象となる生物を調べたり分類したりしていく手法でしたが、最先端の科学研究の中でも生命有機化学の分野では生物の機能らしきもの「創って」理解していく「構成的アプローチ」とよばれるクリエイティブなアプローチが存在するのです!

細胞や細胞集合体のもつ生命の基本的性質を物質科学として理解するには,従来の分子細胞生物学のような「測って理解する」研究(還元論的アプローチ)とは相補的に,"生命らしさ"をもつ有機分子集合体を「創って理解する」研究(構成的アプローチ)が重要です. 引用:東大駒場豊田研究室HP

プラモデルを組み立ててみると車の仕組みがわかりますよね?この構成的アプローチでは、車でいう「タイヤ」や「エンジン」といったパーツにあたるものから作らねばならないので、非常に時間と労力のかかります。生命の自律的なシステムがどうすると発生するのか、実際に創ってトライアンドエラーを繰り返して見つけていく、という研究手法なのです。

現段階では、生命の最小単位である「細胞」の特徴的な機能

・膜構造を自律的につくる
・動く
・分裂する

こうした機能を再現し、本物の細胞に近づけていこうとしています。

原始的な生きてるシステム「プロトセル」

ホアンさんが東大の豊田研究室に所属して長年取り組んできた「プロトセル」は、地球にまだ生物がいなかったころに存在していたと推測されている原始的な「生きてるシステム」です。細胞らしくふるまう有機分子集合体をつくる、全くゼロから生きているシステムを作る試みです。昨年2017年5月にはホアンさんの母校、多摩美術大学情報デザイン学科でもアート+ウェットな人工生命:日本初国際ワークショップでプロトセルの第一人者のスティーン・ラスムッセン教授を招いてワークショプも行われました。ベシクル(脂質膜)に基づいているプロトセルのモデルもありますが、今回のワークショップでは、油滴に基づいているプロトセルを作る方法を体験しました。

ワークショップでは材料の計量の手順やピペットの使い方、化学物質の処理の仕方などウェットなマテリアルの基本的な扱い方についても丁寧にレクチャー。界面活性剤を混ぜた水溶液の中に二つの溶液をそれぞれピペットで慎重に一滴だけ落とします。するとそれぞれがちょうどイクラのような油の膜でできた球体になり、ひとりでに動き出します。

⇨ 動画 

実際に小さな球体が縦横無尽に動いているのを見ると不思議と生きて意志を持っているように見えてきます。 
カストロさんは「色自体に意味はありませんが、人は色が好きだし、対象に対して何かしら意味を見出してしまうものです。普段私たちが動きや色などそれだけでは意味を持たないものに無意識に「生きている」と感じてしまうことを実感してもらいたかった。」と話してくれました。 確かに、目の前で動いているのはただの物質だと頭ではわかっていても、金魚に見えたり、オタマジャクシにみえたり、まるでコミュニケーションをとっているように見えてきます。 高度なものになると、水の中での浮き沈みなどの3D的な動き、スピードなどのコントロールや分裂させる事にも成功しているらしく、本物の細胞の振る舞いに少しづつ近づいてきているようです。

後半は、このように「生きている」構造体が作れるようになったら、どんな新しい物が生まれそうか、また私たちの感覚や概念はどんな変化をしていくのかといった議論が起きました。 細胞同士が寄り集まって「目」になったり「髪の毛」になったりすることを「分化」というのですが、そのレベルを人工的に作るにはまだまだ道のりは長いそうです。私たちの細胞には当たり前に備わっている機能ではありますが、細胞の構造や機能がどれだけ複雑で不思議な物なのかがわかってきます。

参加者の一人で建築を志す学生さんは「今後ものづくりに生きたマテリアルが使われるような時代になると思い興味を持った。今回のワークショップのように実際に素材に触れることでよりリアルに想像できた。」といった声も。

空間や壁がこんな風にひとりでに自己組織化したらどんな空間やプロダクトが生まれるだろう?生命に近いものを人工物として作ったらそれは生命と呼べるのか?そういうものが普通に作られる世界がきたら私たちの価値観はどうかわるのでしょう?

今回をきっかけに、バイオクラブでもソフトマターについてのワークショップを続けていきたいと思っています。次回にもぜひご期待ください。

 イベント詳細: 開催日:2018年3月20日 会場:FabCafe MTRL 『WETBOTS - プロトセルとウェットなオートマタ生成ワークショップ